「猛進ソリストライフ」を現代音楽的に消化してみた。
こんにちは。相川結月です。
この間「現代音楽的なサブカル音楽と、サブカル音楽的な現代音楽」という記事を書いたのですが……
aikawa-yuduki2240.hatenablog.com
そのなかに「イロドリミドリ 月鈴那知キャラクターソング 『猛進ソリストライフ』」という曲を取り上げました。
変拍子ダイスキなので、無条件でこの曲が好きになりました。
そして変拍子を聴くと分析したくなるので、分析しました。
そもそも
私「イロドリミドリ」って初めて聞いたんですが……(無知)
『イロドリミドリ』は、2015年7月16日より、セガ・インタラクティブのアーケード音楽ゲーム『チュウニズム』から生まれた女子高生バンドユニット。プレイ楽曲を軸にラジオ、漫画ムービーなどのメディアミックス形態をとっている。原作は七条レタス、齊藤キャベツ。イラストはHisasiが手掛けている。
(wikipediaより)
ざっとみたところ、それぞれの楽器担当のキャラクターがいるらしいですね。そしてこのなんかやけに服の上から体のラインが見える月鈴那知はヴァイオリンを担当しているようです。
それにしてもwikipediaの登場人物の項の「○○に住んでいる」っていう情報の淡々とした書き方がなんかツボに入りました。
とどのつまり、この曲は音ゲー曲らしいです。怖っ!
いや普通に考えて音ゲーやろうとしてこの拍子だったら帰りますよ。
まあ、とりあえず拍子、メロディ、ヴァイオリンパート、コードを採譜してみました。そして、どちらかというと現代音楽的なクラシック畑的な考え方で解説していこうかと思います。
分析
採譜したところ、以下のようになりました。
え? 途中からが見づらすぎる?
もー 51/64拍子ぐらいなんとかしてくださいよー
実際こういう基準音価が変化する系のテンポ変化(たとえば「それまでの四分音符が二分音符になる」とか、「それまでの付点四分音符が四分音符になる」とか)はそれを明示するためにテンポ変化させず拍子の変化で書き表す文化がないわけでもないです。(たとえば田村文生の「トルキッチュ行進曲」はテンポが変わっているように見えますが、終始四分音符=120で固定されています。スコアサンプルがあるのでどうぞ)
曲全体の構成に対する拍子の説明は正確なのですが、さすがに見づらいので見やすいver.も用意しました。
相対的に簡単に見える……
気付けば「猛進ソリストライフ!」ゲーム収録からもう一年が経とうとしているんですね…
— アオヤギ幸汰 (@KotaAoyagi_ds) 2017年10月18日
ということでゲームサイズの簡易答え合わせです。
ゲームサイズはなんと42回、拍子が変わってました! 誰だこんな曲作ったの!
予習しておいてくださいね♪
#イロドリミドリ #チュウニズム pic.twitter.com/7ZDKtf0xbp
拍子についてですが、正しい拍子は作曲者本人がTwitterに挙げています。それとは少し、異なる部分があるのですが「変拍子+シンコペーション」が用いられるとどこに拍頭を持ってくればいいのか一様に定まらず(変拍子の利点は拍頭を自由に移動させられることであったりする)、解釈する人による部分もあるので差が生まれてしまっています。
それと、「現代音楽だったらこういう風に記譜するなー」という基準でも拍子を決定しているので、そこでも少し差が生じています。
あと、コードについては案外クセがすごく、予想で「このコードかな?」というのが通用しなかったので、ちょっと自信がないです。
以上の理由で、「正解」とはいえない分析ですが、このような視点で解説していきたいと思います。ご了承ください。
イントロ(1~19小節目)
そもそも変拍子ってなんぞや。という話をしたいのですが「拍子が一定でなく変化する」ことを変拍子というらしいです。なので、たとえ4拍子と3拍子でも曲中で頻繁に変われば変拍子になります。
また、混合拍子のことを単に変拍子と呼んだりもします。 これは「小節の中で一拍が四分音符だったり付点四分音符だったりする」ことを指すと認識していただければほぼ問題ありません。
そういう意識で早速曲を見ていきましょう。この曲はBPM=189です。ちょっと中途半端ですね(伏線です。)
冒頭は殆ど7/8拍子です。しかし、よく見てみると(2+2+3)/8と(3+2+2)/8が代わりばんこに現れています。
しかし、9,10小節目などはメロディにシンコペーション的な動きが含まれており、少し判断しづらいです。
さて、11小節目からの3小節間ですが、作曲者の提示した拍子と違います。
作曲者:3/4 9/8 9/8
私 :7/8 8/8 9/8
まあ、合計したら同じなのですが。
13小節目は9/8以外どうにも表せられないのですが、前2小節は確かにどうにでも書き表せられそうな感じです。実際にコードの変化する点(楽譜だと小節に寄せちゃってますが)で小節を区切ると作曲者の提示したようになります。しかし、前後の流れに鑑みると私の方がうまく表せているんじゃないかなーと思っています。
まあ、作曲者が意図したものが一応の正解なのですが……
あとは特に言うことはないです。楽譜通り。
拍子は関係ないのですが、コードについて。9小節目のコードなのですが、明らかにEm7-5の方がメロディとの当てはまりがいいのですがベースが何十回きいてもE♭の音を弾いているようにしか聞こえず、このコードになっています。やっぱクセがすごい。
Aメロ(20~35小節目) 練習番号A
Aメロは終始4/4+3/4拍子です。7/4拍子と書いてもいいのですが、現代音楽畑的にはそれがどの拍子がどういう風に組み合わさっている混合拍子なのかがわかりやすいように拍子を書きます。7/4だと3+2+2なのか2+2+3なのかがぱっと見わからないので、このように記譜しています。
ただ、ここはシンコペーション的なリズムが使われており、それにこきつければ7/8拍子だと言い張ることも可能になりそうなリズムです。ただそうするとグルーブ感がのっぺりとしてしまいそうな感じになります。
Bメロ(36~51小節目) 練習番号B
ここは終始3/4拍子。しかも一小節を一拍のように感じる3拍子です。舞曲とかによくある。
この拍の感じ方が後々効いてきて、50,51小節目ではそれまで一小節を3等分していたものをそこから2等分しています。拍を大きくとる事によって拍以下の細かい動きは柔軟に感じることができます。これは結構現代音楽でも多用される手法です。
それによって今まで付点四分音符だったものを四分音符として、Cメロに突入します。
Cメロ(52~64小節目) 練習番号C
先ほどの2小節によって基準拍が変更されました。これを
テンポは変化せず、ただ基準拍の音価が変わっただけだと考える→見づらいver.
基準拍の音価が変化した後も、基準拍が四分音符になるようにテンポを変化させる→見やすいver.
となります。
見づらいver.では基準拍が付点四分音符となるので、付点四分音符を2^n等分した音価で構成されるようになります。
見やすいver.では、テンポ変化を施すと今後のBPMは126となります。
機械式メトロノームにもあるテンポですね。ここがきれいなテンポになるように冒頭のテンポが設定されていたようです。(伏線回収)
この人この曲サビから作ったな……(妄想)
さて、どちらのver.にしてもここは11/16拍子になっています。は?
感覚としては1+1+(3/4)という感じでしょうか。
基準拍を4等分したもの(付点16分(3/32)や16分音符(1/16))が
4+4+3
という分かれ方になっています。したがって、見づらいver.は(4+4+3)*3/32=33/32拍子になり、見やすいver.は単純に11/16拍子となります。
もう今後見づらいver.での解説は基本的にしません。
最後の方は5/8や6/8拍子となります。これはそれぞれ
(3+2)/8 (3+3)/8
という風に分かれています(楽譜では純粋な5/8や6/8で書いちゃってますが)
さらに、厳密には
(1.5+1.5+1+1)/8 (1.5+1.5+1.5+1.5)/8
となっています。前者はいわゆる「ミッション・インポッシブルリズム」ですね。
どちらにしても、5拍子、6拍子というよりは4拍子(あるいは2拍子)的に捉えられるリズムです。
そしてCメロ最後の17/16拍子。ぶっちゃけ謎です。
見づらいver.だと51/64拍子((3*17)/64拍子)になっちゃってます……
音ゲー的な嫌がらせポイントでしょうねきっと。耳で感知できない程度にタイミングをずらされるという……
コードですが、前半はカノン進行の亜種になっており、しかもヴァイオリンの動きがパッヘルベルのカノンを彷彿とさせていてオマージュみを感じます。
後半はちょっとよくわかんなかったです。
サビ1(65~81小節目) 練習番号D
5/8拍子と6/8拍子で構成されています。最初四小節は
5/8 5/8 6/8 6/8
となっているので、なんとなく法則が見えてきたところで後半四小節は
5/8 6/8 6/8 6/8
に変わり、意表を突く形になっています。こういう変拍子の組み合わせ方の法則をずらす、いわば変小節(?)が効果的に用いられています。
まさに
「強気なリズムを引き連れて」(CV:今村彩夏)
ますね
最後の小節だけ4/4拍子。
ところでいまさら何ですけど何でこの子こんな口調なんですかね……
間奏(82~98小節目) 練習番号E
怒濤のヴァイオリンソロ。担当した方お疲れ様ですといった感じ。
ここも基本的に5/8と6/8が入り交じった感じです。
89小節目みたいなシンコペーションを変拍子の曲でやられると困るんだよなあ……
ここのコードは本当にクセがある上、ベースがうみょーんって動いてるのでマジで自信がないです。
サビ2(99小節目~最後) 練習番号F
さあついに大団円といった感じ。前半はサビ1と一緒ですが、最後の小節のみ7/8拍子になっていて(6/8拍子に八分音符が一つ挿入されたイメージ)リズムパターンの変化を予感させます。
後半はなんとここできました4/8拍子。しかし、メロディとしてはそれまでの5/8や6/8の動きの変形で、小節が短くなった分相対的に疾走感が生まれています。
そして110小節目から最後の小節まで、一小節毎に八分音符が一つずつ付け足されています(4/8→5/8→6/8→7/8→4/4(8/8)→9/8→10/8)。いままで結構感覚的なグルーブ感としての変拍子だったのですが、ここに来て理由づけられた変拍子を使ってきました。よきよき。
まとめ
今回はイロドリミドリのキャラクターソング「猛進ソリストライフ」を分析しました。
音ゲーというプラットフォーム上でなかなかいろいろなことにチャレンジしたなといった感じがしました。
音ゲーの曲としては難しすぎる変拍子かと思いますが、今度プレイする人はこれ参考にして。
余談もいいところですが、このキャラクターのCVである今村彩夏さん、この6月で声優業を引退されていたようで……この曲を歌い上げたというだけで素晴らしい声優さんだったことがわかります。
ちなみに、作詞作曲のアオヤギ幸汰さんも所属していた会社を同じタイミングで離籍されていたそうです。まあ、だからどうしたという話なのですが。両者とも人生の新たなスタートをお祝い申し上げます。