現代音楽的なサブカル音楽と、サブカル音楽的な現代音楽
自己紹介
こんにちは。相川結月です。
美兎委員長のイメージソングの記事を突然あげた人間みたいな感じになってるので軽く自己紹介を。
オーケストラでトロンボーン吹いています。曲の趣味は現代音楽に偏っていますが、サブカル的な曲も好きです。アニメ本編は殆ど見なくてもその主題歌とかはなんとなくチェックしたりしてます。
というわけで、このブログも現代音楽といわゆるサブカル的な音楽について色々語っていけたらなと考えています。
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ところで、この間の委員長ソング記事において比較する曲にStar!!をあげました。
Star!!は「アイドルマスターシンデレラガールズ」の1期OPでした。この曲を分析する際についでに2期OPの「Shine!!」も聴いてみたのですが
……
「この曲難しすぎでは!?」
いや、めっちゃくちゃ高度なことしてますよこれ。
さりげなく挿入される2/4拍子、アクロバティックなまでの転調。
この曲に限らずアニソンとか意外と実験的な曲が多い印象です。もちろんすべてではないですが音大卒の作曲家も多くいます。実際にShine!!を作曲した滝澤俊輔さんやちょっと古いですがAKB48の「会いたかった」を作曲した河出智希さんも音大出身です。
河出さんは第一回朝日作曲賞を受賞し、吹奏楽コンクールの課題曲にも選ばれています。けっこうな現代音楽。
だからという訳ではないですが「ちょっと高度すぎないか?」というサブカルソングは結構あるんですね。
現代音楽的なサブカル音楽
厳密な話ではなく、一般的に「現代音楽」というとどういう印象でしょう。
おそらく
- 変拍子
- 不協和音
が表立っていれば現代音楽認定を受けるんじゃないでしょうか。
それらの要素を含むサブカルソングは結構あります。しかも当たり前のように、そして聴く方も違和感なくその世界に引きずり込まれるように……
一般的に大衆的なサブカル音楽において、ある種人を選ぶような現代音楽の書法を用いるこのギャップがいかにもすばらしいといった感じです。
乗せられそうなリンクを適宜乗せていきます。各自でいい感じに聴いてください
変拍子(ゆるめ)
変拍子は比較的頻繁に用いられています。その例をいくつか紹介します。
「変拍子 アニソン」で検索するとめっちゃ出てくる。
「空耳ケーキ」(あずまんが大王OP) 作曲:伊藤真澄
https://www.amazon.co.jp/あずまんが大王-Raspberry-Heaven-Oranges-Lemones/dp/B000063EE4
変拍子系アニソンの原点みたいな存在じゃないですかね。
サビの部分が7(3+4)/4拍子になっています。
ベースだけ聴くと7(4+3)/4な感じもしなくはない
拍子もさることながらAメロの転調もなかなかダイナミック。
「笑顔になる」(幸腹グラフィティED) 作曲:北川勝利
https://www.amazon.co.jp/笑顔になる-リョウときりん-佐藤利奈と大亀あすか/dp/B00QLVL8CQ
初っぱなから7(4+3)/4拍子。すげえ。Aメロに入った後も7拍子がちょいちょい使われています。
こういったいわゆる「おしゃれ系」アニソンはこういう比較的ゆるめな変拍子を使うことが多い気がします。
作曲家の北川勝利さんの作品はいわゆる渋谷系的なサウンドが持ち味らしいです。
というかこのCDジャケットすごいな……
「キッズ・ノーリターン」(相対性理論) 作曲:ティカ・α/永井聖一/山口元輝
https://www.amazon.co.jp/TOWN-AGE-相対性理論/dp/B00C94ACDK
相対性理論、そしてそのボーカルであるやくしまるえつこの曲にも変拍子は頻出しているイメージです。
この曲は前半は6/4+5/4という繰り返しになっています。
なかなか11拍子系はサブカルソング界でも珍しいのでは……?
「あ・い・う・え・お・あお!!」(ひなこのーとOP) 作曲:睦月周平
これは基本4/4拍子の所に5/4拍子などが挿入されている形になっています。
セリフのところは3/4拍子が基本になっていたりと曲全体を通して変拍子が用いられています。こういう電波っぽさを変拍子によって出すこともしばしば。
それはそうと、このアニメのEDもなかなかすごいですね……
「かーてんこーる」 作曲:宮原康平
Bメロが6/8拍子なのもそうですが、なんと言ってもテンポ変化がエグい
ソフランかな?
3:4の変化のような気もするしそうでもないような気がする……
変拍子(きつめ)
終始変拍子だったり、n/8拍子系だったりする曲達です。
「キルミーのベイベー!」(キルミーベイベーOP) 作曲:EXPO
私キルミーベイベー知ってます。声優が薬やって2期が絶望になったアニメですよね?
Bメロ(?)のところが8分の
2→3→4→5→4→3→2→3→4→5→4→3
という結構規則的な動きではありますが、なかなかきつめの変拍子になっています。
ちなみにここの箇所の歌詞は(小節毎に/を引いてます)
ガチ/すぎて/ぎりぎり/ともすれば/ピロシキ/もとい/では/アウチ/なかよし/コボルスキ/みぞおち/フォリシ
……
は?
「猛進ソリストライフ」(イロドリミドリ キャラクターソング)作曲:アオヤギ幸汰
プログレかよ。
全曲通して変拍子ですが、基本的には3/4拍子に足したり引いたりしてる形ですね。
Bメロ後半(?)の所「無理もない~」は、今まで 付点4分音符だったものが一拍として用いられた上で11/16拍子になっているので、テンポ変化で表さずそのまま書き連ねるとここの拍子は33/32拍子になります。
結構面白いので今度しっかり分析するかも。
「ignis」(Annabel)作曲:myu
恥ずかしながらこの方存じ上げなかったのですが、ブエノスアイレス出身らしいです。
この曲も全曲通して変拍子なのですが、いかんせん拍子がわかりにくい……
かなり大きな拍子として捉えそうになる曲調なうえでかなり細かい拍子の足し引きが行われているので何というか、ノリを揺さぶられる不思議な感じを醸し出しています。
不協和音
不協和音はあんまりないですね。やっぱり未だに不協和音は変拍子に比べて扱いにくい印象なのでしょうか。
検索しようとすると欅坂46の「不協和音」がめちゃくちゃヒットしたのでもうそれでいいかな。
たとえばaugコードを経過和音以外で使っているパターンは比較的不協和音っぽく聞こえるのではなかろうか。そして「聴いてる人をはっとさせる」程度のアクセントとしてしっかり効いてきそう。
プログレ的な高度な和音を採用してるという意味では「キルミーのベイベー!」も全音音階とか使ってきてるしなぁ。
サブカル音楽的な現代音楽
現代音楽界でもなんとなくサブカルっぽい曲や意図的にサブカルに寄せている曲があります。特に、日本人やアメリカ人の若い作曲家は結構そういう曲を作っています。
「Play」 作曲:Andrew Norman
最初から結構不協和音的な音や強烈なダイナミクスが支配している曲ですが、よくよく聞くとなんとなくロックっぽかったりゲーム音楽のような響きがしている曲です。
また、特定の音素材が音楽に様々な作用を及ぼす「スイッチ」のような役割をもつというアプローチがとられています。例えばトライアングルの音は「freeze / unfreeze」の役割を持っていて、トライアングルが鳴らされるとそれまで活発に動いていた音型が伸ばしの音に変わる、といったように作用します。
動画はLevel 1(第一楽章)なのですが、Level 3まであります。全曲やると50分弱の大曲です。
こんなん50分もやったら疲れすぎて再起不能になるわ。
「Concerto for turntables and orchestra」 作曲:Gabriel Prokofiev
「ターンテーブルとオーケストラのための協奏曲」です。この動画のソリストはDJ Switchさん。Proms(イギリスで行われる音楽祭)のステージに初めてTシャツで立った人物とか言われてますね。
オーケストラの音を録音して素材として利用したり、オーケストラとDJの掛け合わせがなかなか新感覚。ロシア近代音楽の雰囲気と、現代のテクノやロックなどの音楽がいい感じに融合しててよきよき。
途中のオーケストラが談笑したり飲み物を飲む所なんか客席から笑いが起こってましたね。
ところでクラシックに詳しい方々、作曲家の名字に見覚えありませんか?
そう、何を隠そうこのゲイブリアル・プロコフィエフはあのセルゲイ・プロコフィエフの孫です。
「吹奏楽のためのスケルツォ第2番 ≪夏≫」 作曲:鹿野草平
サブカル系現代音楽と言ったらこれでしょう。
吹奏楽部出身者の方も多いかと思われますが、この曲は2010年吹奏楽コンクールの課題曲Vに選ばれました。
課題曲に久々に加えられたドラムセット、プログレッシブ・ロックのような変拍子とグルーブ感、複数の声部を複雑に絡める感じ……どれをとっても「かっこいいべ!?」というサブカル的な精神が伝わってきます。
まあ、そういうような要素からもサブカル感は感じられるのですが、動かぬ証拠(?)として作曲家自身が『近年流行の「電波ソング」と呼ばれるヴォーカル作品、特に2007年の神前暁氏の制作による4人の女声のための作品を、自分の音楽によって翻訳したつもりである』と発言しています。
2007年の神前暁氏制作による4人の女声のための作品……?
https://www.amazon.co.jp/TVアニメ「らき☆すた」OP主題歌-もってけ!セーラーふく-平野綾/dp/B000NO2BVO
チューバソロが始まるまでとかはなんか察せられますが、ぶっちゃけわからん。
前半のカオスきわまるところは、3つのリズムが調和とか顧みず同居しているのですが、それがBメロ前のセリフの箇所と通じるものがあるようにも感じます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
大衆に迎合しているようなサブカル音楽にも高度な音楽技法が用いられていたり、普通の人にはあまり耳なじまない現代音楽にもおもしろみがあったり、新たな発見だったんじゃないかと思います。
みんなも現代音楽沼においでよ!